もくじ
ガッツリ儲ける方法
「カジノ法案」(統合型リゾート=IR実施法案)が今国会で成立しました。「ギャンブル依存症の人をどうするのか」など、今後も日本ではさまざまな重要な議論が交わされそうです。依存症対策はしっかりとなされるべきだと思います。
シンガポールでは、すでに8年前の2010年にカジノ施設を中心としたIRが導入されています。そこで今回はシンガポールのIRから日本が学べることについてお伝えしたいと思います。
シンガポールは「マカオ型」と「ラスベガス型」の中間
ズバリ、言いたいことをひとことで言うと、シンガポールはIRの運営で「カジノ収入だけをあてにしているのではない」ということです。
まずはシンガポールのIR導入の経緯や観光収入の構造から解説しましょう。シンガポールも「カジノを作ればギャンブル依存症問題が深刻化する」との懸念から長年、計画を見送ってきました。
しかし、「カジノを建設しないと、他の国におカネが流れる」ということで、結局、政府は厳しい監視付きで導入することにしました。これは大枠で日本の今回の決定に似ているといえるでしょう。
シンガポールのカジノは現在2つあります。米国のラスベガス・サンズ社が運営するマリーナベイサンズと、マレーシアのゲイティン・グループが運営するリゾート・ワールド・セントーサです。
いずれもカジノだけではなく、ホテル、レストラン、ショッピングセンターなどを併設。さらにコンサート劇場、博物館、シアターなどのエンターテインメント機能、会議場や展示場などのビジネス機能までもった「巨大IR施設」になっています。
シンガポールのIR(統合型リゾート)の特徴、カジノに利益を依存する中国の「マカオ型」と分散収入型でエンターテインメント(ショー・イベント)や買い物でも稼ぐ米国の「ラスベガス型」の中間の経営になっています。カジノ収入だけでみると、シンガポールはマカオ、ラスベガスに次いで世界3位です。
つまり、「カジノも強いが、ほかの部門でも稼げる構造」になっているのです。カジノ収入は、主軸を占める中国からの顧客の動向や近隣国での建設の可能性など、不安定要素が小さくありません。
カジノが不調なときも買い物やショーなどで回収できる利益構造を目指したほうが、リスクを低減させながら発展できます。
2017年(第1~3四半期)のシンガポールの観光収入内訳をみると、買い物が約23%(前年同期比+9%)、宿泊が23%(同+2%)、飲食が10%(同-5%)、観光・エンターテインメント・ギャンブルが21%(同+6%)、その他が23%(+9%)となっています。
つまりカジノの売り上げは全体の約20%程度なのです。買い物、飲食、宿泊などの好調から、全体で2016年の同期と比べて5%伸びていることがわかります。
カジノ施設を中心としたIR(統合型リゾート)を作ることで、カジノだけではなく、宿泊から飲食や買い物まで、1人の観光客から幅広くおカネを落としてもらうことができます。
マリーナベイサンズでは女性の入場料やドリンク無料も
2つのIRのうち、やはりマリーナベイサンズは3つのビルの上に船が置かれていて「見た目のインパクト」が大きいと思います。
「一度は屋上のプールに入ってみたい」という観光客も多い、あこがれの商業施設です。実はこの建物、以前にも少し書きましたが、風水設計も完璧なのです。
ショッピングモールにも財を運ぶ運河があり、天井から大量の水が落ちてくるように設計された巨大な逆噴水は金運を呼び込み、そこに貯めるという意味があります。
行ったことのある方なら共感してくれるかもしれませんが、大量の光や水が建物内を循環していて、少しおしゃれをしてモールを歩くだけで気分が上がります。
水曜日などは屋上のナイトクラブで「レディースナイト」も行っていて女性は入場料とワンドリンクが無料です(対象時間など諸要件あり)。
クラブの名前を伝えれば、水曜日は女性なら無料で屋上に上がることもできるのは特権ですね。
ショッピングモールの営業時間は午前10時半から午後11時(金、土、および祝祭日の前日は午後11時半)までと夜遅くまで営業しています。
日本でも最近ナイトエコノミーの重要性が叫ばれていますが、たとえば世界初の「夜だけ開園するサファリ」として有名なナイトサファリなど、
夜の観光を楽しみ、屋上のバーで1杯飲んだ後、ほろ酔い気分で買い物ができるようになっているのです。
中国から来た友達には「日本はお店が閉まる時間が早すぎるよね」と度々文句を言われるのですが、確かにデパートも飲食店も、いろいろな事情があるとはいえ、閉まる時間が早いと感じます。
シンガポールでは金、土、祝祭日の前日はマリーナベイサンズのようなビルの屋上のバーや川沿いのバーなどは、深夜でも若者でごったがえしています。
前述のように曜日によってはお酒が無料(諸要件あり)というレディースナイトを実施し、集客しているバーも多いのです。
もちろんすべての施設を夜遅くまで開ける必要はありません。
しかし、少なくともIR(統合型リゾート)を大都市に設けるメリットは大きそうです。
そのほうが売り上げは上がるのではないでしょうか。
ちなみに、シンガポールの場合は隣国のマレーシアなどから労働力を確保するなどの形でシフト制をしいており、長時間での営業も可能になっています。
短時間で爆買い可能!驚きの中華系向けマーケティング
シンガポールの国別観光収入を見ると1位は中国で、なんと内訳の42%が買い物になっています。
マリーナベイサンズを中心とした高級ショッピングモールは中華系が好む「超有名デザイナーズブランド」が勢ぞろいしています。
なので「買い物はやっぱりマリーナベイサンズよ。一気に回れるし、食事もできるしね」という中国人(大陸や米国出身)の友達も多いです。
中国人の友達と一緒に買い物に行くときに、驚くのは購買までにかかる時間の短さです。5分以内に買うか買わないか即決という人も多く、滞在時間が短いのです。

そのためか、マリーナベイサンズは有名ブランド店の配置が絶妙です。同じ階の近隣に、嗜好が近いブランド店が見事に並べられているのです。
高級有名ブランドが固まっているゾーン、人気のモード系の高級ブランド、カジュアルブランドが並んでいるゾーンなどです。
たとえ短い滞在時間でも爆買いが可能になっているのです。
店舗の入れ替わりも激しいのですが、生き残っているのはとにかく名前が有名なブランドです。
「ロゴ命!」の中華系の嗜好に合わせて、セレクトされる商品もブランドがひと目でわかりやすく、季節によっては「赤」など、新春に使えるドレスも豊富でディスプレイもとてもにぎやかです。
マリーナベイサンズは旅行客にも慣れているので、日本よりも気軽に高級ブランド店を物色することもできます。
こちらから声をかけないかぎり基本放っておいてくれるので入りやすいのです。
気軽に値段なども聞き、試着させてもらっても大丈夫な文化です。

また、マリーナベイサンズのカジノにはVIPクラブがあります。最初の間口は広く、あまりおカネを使わなくても入れるクラスからスタートします。
そこから、使った額などに応じて、ステージも上がり、受けられる特典もどんどん魅力的なものになっていきます。
最上級のクラスは紹介制です。数年前に加入した私の知人は400万円程度のデポジット(預け金)をして資格を得たと話していました。
この資格をとると、外国人なら、空港でVIPレーンを利用できるなど、国を挙げての特別扱い。宿泊や食事でも、特別レートなどでの優待がたくさんあります。
中国人富裕層を取り込む日本ならではの施設を
実は、会員クラブやVIPサービスは客自身がある意味で「勝手に努力」してくれ、ステージを維持するために時にはちょっと背伸びや無駄遣いをしてしまう仕組みになっています。
また紹介制だと友達を紹介したくなる仕組みになっているので、客自身がセールスパーソンになります。
実際に紹介をしたらバウチャーを贈呈といったサービスもよくあります。
「類は友を呼ぶ」ので、紹介制は非常に合理的なのです。
こうした富裕層向けサービスは通常は「裏メニュー」でインターネット上でも検索をすれば出てくる場合もあります。
しかしほとんどの場合は、奥のほうに隠されていたりして、庶民の目に止まらないようになっています。
また、シンガポールではVIP客の囲い込みや新規顧客の獲得のためにファッションショーやパーティなどイベントが頻繁に行われています。
シンガポールのイベントでは軽食やシャンパンなどが周到に準備されていて、本当に華やかです。

アパレル店では販促のためにその日は割引だけでなく、ノベルティが出ることもあります。
「お酒に気を良くしてお買い上げ」ということもよくあるのでうまい仕組みだなと感じます。
商業施設全体が儲かれば、結局、誰もが利用できる公共部分の設備を充実させることができ、庶民にも恩恵があります。
たとえば、シンガポールには空港やマリーナベイサンズに無料でくつろげるベンチなどがたくさんあります。
フードコートや安いお店も多いので持ち帰りにして海辺で座って食べている人もたくさんいます。
清掃の人がたくさんいるので、公共の場ではあと片付けはしなくても良いのが基本。街にゴミ箱も多いので、気軽に捨てることもできます。
買い物も半端ありません。新作が出たら即買ってくれるお金持ちが多いために、シンガポールのセールは本当に早い。
5月や11月下旬から行われ、割引率も高いのです。また3月や9月などの決算期に在庫処分のために6〜9割引セールの催しを別会場で行う場合もあります。
『未来の中国年表』によると、2023年に中国が世界一の経済大国となり、中間層4億人が海外で「爆消費」をするという予測があります。
日本でも、中国を中心としたアジアで増え続けるこうした中間層や富裕層をしっかり取り込んでほしいものです。
そのためにも、シンガポール、マカオ、ラスベガスに負けない、日本ならではの世界観があるIR(統合型リゾート)設立を目指してほしいと望みます。